田中克彦の『ことばと国家』(岩波新書)読了。

この田中克彦という人は「闘う言語学者」とのこと。著作を一冊しか読んでいない私がこう言い切るのもアレだが、私もこの人は「闘う言語学者」だなあと率直に思った。

何かを解明しなければいかん!という使命感を抱く「科学者」は、きっとこの著者のような闘志を何らかのかたちで持っているのだろう。というのも、著者・田中氏が「言語は"差異"しか作らない。その差異を"差別"に転化させ云々…」という表現を用いているからだ。この人は、言語学を「社会的なものをばらばらに解きほぐして、底にひそむ蔑視の性質をあきらかにしようするためのもの」と認識している。

私が思うに。

「科学者」も色々なタイプがいて、たとえば、様々な事象を集めていわば帰納法的にデータを導き出すこと、それ自体を目的にしちゃってる人がいる。機械的に結果だけを求めている人のことだ。そうねー、例を出すなら、恋人の人となりを知りたくて部屋に侵入したカノジョが、カレの部屋に散らばる要素(ダンベル、プロテイン、筋力アップのハウツー本)を発見して、「私のカレは肉体派だわ!」と理解しただけで満足しちゃう、みたいな。

大切なのは、それら要素から導き出された「カレは肉体派だわ!」という事実を、カノジョがどう捉えるかだ。なぜその肉体派のカレは肉体派になろうとしているのか、それは愛するカノジョを守りたいという感情から出発したのかもしれない。そういう、そもそもの原点をカノジョなりに考えなければ、導き出されたデータは単なるデータに過ぎない。データに意味づけ(正しいか間違っているかはどうであれ)をするのが、「科学者」の使命ではないか?

そういう意味で、この田中氏には「真の科学者」という称号を与えたい。彼は、言語がどのようなものかをデータとして私たちに提示するだけでは飽きたらず、そのデータを前提にして「なんかマズイんじゃねえのか?」という問いを投げかけている。それは闘志だ。世の中を支配する、"実体は見えないけど倒すべきもの"の存在を意識している。

近代以降の「科学」は、人類の長い歴史の中で作られてしまったこの"実体は見えないけど倒すべきもの"を明確にするためのものだと、私は勝手に思っている。そして、確かな知識を持って(←ここポイント)その敵に立ち向かっている「真の科学者」に、私は強烈な敬意を払う。



追記。

内容に関して。個人的にドキッとさせられたのは、「多様で個性的な文化の出会いの中に置かれている人間現象に、こうした生物主義的な純血概念を持ち込むときに生れるのは人種主義である。」というくだり。「純粋な」言語という概念はあくまで"概念"でしかないのに(つまり、「純粋な」言語などどこにも無い。)、「どこかに本当に純粋な答えがあるのではないか?」と考えてしまう思考の癖は、私の中に脈々と息づいている。

ヒトラーがユダヤ人の一掃を思いついたのは、ゲルマン人種の血の「純血」という、実証不可能な概念を根拠にするものだった、と。つまりこの思考パターンは、進むべき道を誤れば相当危険なものになるということだ。肝に銘じよう。

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真面目な話の後に、アホな備忘。

●本日のお食事。

某遊園地の近所で、焼き鳥と牛スジをいただく。
お新香がさっぱり味の浅漬けで、私好み。まいうー!

本日は「はなきん」につき、お店大繁盛。さてさて、こういうときは注文のぺースが大切である(byマイ・ラヴァー)。入店後、まずは生ビール。それが来るまでに周りを見ておいて、「あ、あの人たちは俺らが来る前に座ってるのに、まだ注文の品が来ていないな。。。」と、その店の"ぺース"を概算すべし、と。ペースを見誤ると、あらかた食べ尽くして目の前に何も無い…ということになりかねん、もしくは妙にいっぱい来すぎて狭いカウンターがぎっしりになる、と。ふむ。

食も、ある種、駆け引きだな。押すのか引くのか。そういった駆け引きは、恋愛はもちろん、ビジネスの現場でも必要なのだろう。人生は駆け引きだ。



●大食いと食いしん坊。

私は自他共に認める「大食い」である。女のくせに男並みに食べる、飲む。

しかし食にうるさいかと言えば、実はそうでもない。口に入るものはなんでも美味しいと思う。そのわりにグルメ雑誌をチェックしたり、ウキウキとお店をセッティングしたり、ということには貪欲でないし、ウロウロしてお店を開拓したいという欲望も、人よりは少ない。

マイ・ラヴァーは決して「大食い」ではないが、食に対して貪欲だ。美味しく食べるための工夫を忘れないし、お店もたくさん知ってるし(職業柄というのもあるかもだけど)。最初は「おおー。」と思ってたけど、実はただの「食いしん坊」なのではないか?と気付いた昨今。

「大食い」と「食いしん坊」は、似て非なるものだ。(←個人的にものすごい発見。)

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