Dear 企業戦士s

2005年12月10日
内田樹の『知に働けば蔵が建つ』を読む。(卒論はどーした。)

資本主義企業における「労働に対する対価としての賃金」はつねに労働が生み出した価値よりも少ない、という記述にハッとさせられる。日本というシステムはサラリーマン諸君の滅私奉公的オーバーアチーブによって支えられている、とのこと。うへぇ。

話はズレるが、最近、社会人の方々とメールをやり取りする機会が多い。メールの冒頭に「お疲れ様です。」と書き添えることが多くなったのだ。これは学生同士の付き合いでは無かった現象で、新鮮なこと。

私にとって一番身近な社会人はやはりマイ・ラヴァーなのだが、彼は、んもう本当によく働いているなあ、と毎日のように思う。小学生の頃よく見たあのCM(「24時間はたらーけますか?ビジネスマーーーン♪(リピート)」ってやつ。)を思い出す。誠にお疲れ様である。ちとオーバーアチーブなのではないかい?と私は密かに思っていたが、どうも彼に限ったことではなさそうだ。

さらに話はズレるが、私はかつて、男の人と付き合うたびに「尽くすこと」と「媚びること」の違いに悩まされていた。尽くすことと媚びることを混同している女は、相手にそっぽを向かれた原因が媚びている自分にあることに気付かずに、「あんなに尽くしたのに!」といって相手を罵って、そしていつまで経っても成長しないのだ。私は、相手を罵りたくなるたびに、尽くしていたのは相手のためではなく、尽くすことによって得られる快感を自分が欲していたに過ぎない、という事実に直面する。

人間の人間性は「わが身を供物として捧げる」ことのうちに存在する、と内田さんは語る。

「わが身を供物として捧げる」という行為は、一見利他的であり、非合理的だ。しかし、猿が人間になったのは、猿の中に"複雑な感情"が発生したからである。そして、なんでそんな感情が生まれたのかといえば、オスとメスが「契約」を結ぶようになったからである(byヘレン・E・フィッシャー『結婚の起源』)。自分の食べる分を自分で確保できていた頃は、シンプルでわかりやすい「利己主義」が表出していた。

最近、どんな本を読んでも、結局同じところをぐるぐると回っているような気がしてならない。著者の言いたいことはそれぞれ別なのだが、私が注目するところは同じ部分のようだ。

私は、猿が人間になった瞬間に、つまり一見自己犠牲的な奉仕の感情が生まれたことに、ものすごい興味を抱いているらしい。社会学の本を読んでも、生物学の本を読んでも、現代思想の本を読んでも、どうも「非合理的」がキーワードであるようだ。「非合理的」なことというのは、「なんでそうなるんだよ!人間はよう!」ってな具合に理解し難いから問題となり、人間の目指す「理想=合理的な世界」の間に歪みを生むのだ。

マイ・ラヴァーを見ていると、「お兄さん、なんでそんなに働くんだよう。」と心配になるが、内田さんいわく「サラリーマンはその労働の対価として不当に安い給料で働くことを通じてはじめて、労働しているという実感を得ることができる。労働する能力、労働する身体を有し、労働者としての社会的承認を獲得することができる。」とのことなので、彼の姿にこそ、人間の人間らしい何かが見えるような気がする。人間は「すねを囓られる」という経験を通じてはじめて「自分にはすねがある」ことを確認するのだ。

適正な支出に対する適正なリターンを求めることは、たしかに「合理的」だけど。賃金と労働が釣り合うということは、どうも原則的にありえないことらしい。これは来春以降の自分のためにも覚えておこう。

私が社会人の皆様に「お疲れ様です。」と言うとき、たとえ彼らが上記のようなことをわざわざ考えていないとしても、誠に人間らしい何かに触れるような気がして、ある種のリスペクトを抱かざるを得ないのよね。







…でも、デートのときに顔がゲッソリしているリーマンの彼氏(目の下に隈付き)は、ちょっとイヤン。

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備忘。

●本日のBGM。

小曽根真の『OZONE』。(すごいタイトルだ。)

父のCD棚に埋もれていたホコリだらけの盤。ボストンのバークリー音大を1983年に主席で卒業し、83年夏のクール・ジャズ・フェスティバルで、初めての日本人ソロ・ピアニストとしてカーネギー・ホールの舞台に立った人、だそうだ。

このCDは、彼の恩師のゲーリー・バートンがプロデュースと共演を買って出たものらしい。

ピアノの良し悪しはさっぱりわからないけど、静かな気持ちで聴くことができる素敵なCDだと思います。ただ、80年代のCDということで、ジャケットの小曽根さんの髪型や眉毛など、気になる部分が多少ある気はします。

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