寒くて目覚める午前九時。
ただでさえ寒いのに、横で眠る人に布団を独占されていた。朝から身震い。一人そそくさと脱出→朝ゴハンの買い出しへ。
日曜日、彼の家の周りは賑やかになる。久しぶりに気持ちよい陽気の朝だ。お財布だけを持って出てきた老夫婦や、赤ちゃんを前後に抱えてさらに両手に袋を持つ奥さんなどの間を通り抜け、私も入れて入れて、と、スーパーで食材を物色。
近所にはスーパーが二軒あって、おそらく値段が違う。近々、調査すべしだ。とにかく、何が重要かって、彼の部屋で作れること(場所をとる料理は不可)、白米を必要としないこと(米のストックが無い)、解凍を必要としないこと(電子レンジが無い)、調味料を買わずに済むこと(塩くらいしか無いが、しょうゆは補填完了。)、そして1000円札一枚に収まることだ。会員様価格、という表示に指をくわえる私。会員になりたい。
彼の部屋の鍋底がヒドイことになっていたので、100円ショップで鍋も買う。いかにも100円な、アルミの片手鍋。初めてホイッパー(泡立て器)を買ったときや、初めてゴムべらを買ったときのことを思い出した。お菓子作り用ではなく、料理のための台所用品を買うという行為は、なんとなく自立の匂いがする。
買い物袋をふたつ提げて、帰宅。
野菜を刻んでいたら、「あ、すんません…むにゃむにゃ…」とつぶやく布団の中の家主。何に対して謝っているのかわからない。夢の中で取引先と交渉中なのか。ゴハンの支度をしている私に対して「寝ててスミマセン。」と言いたいのか。とりあえず放置して切った野菜を炒めていたら、「あ…おかえりぃ…。」と言い出した。とっくの昔に帰って来てるぞ。
フライパンで炒めた野菜を鍋に移して、グツグツと煮込む。キッチンといっても、振り向けば奴(大量の本)がいる。楳図かずおの『漂流教室』を引き抜いて、煮えるまで読書。が、料理をしながら読むものではないようだ。
恋をすると煮込み料理を作りたくなる、というのはわりと人口に膾炙した現象らしい。その理由はさっぱりわからないが、気持ちはわかる。こういう時間は悪くないし、野菜と肉がおいしく混ざる匂いと、布団の中のぬくい湿気と、三十路前の男の寝顔を独占できる私は、幸せの象徴の渦の中にいる、と思う。具材に煮汁が染みこむように、幸せに満ちた部屋の空気が私の体にも染みこめばいいのに、なーんて少女マンガのヒロインっぽいことを考えてみたり。
ようやく目覚めた人が「わー。スゴイねー。イイ匂いだねー。」と現れた頃には、料理もほぼ完成。パソコン周りを片付けて(というか、単に物を横に寄せただけ)スペースを作り、あつあつのまま食してもらう。
人のために何かを作ってあげる度に思うのだが、一緒に食べていても、自分の食べている物の味がよくわからない。美味しければオイシイと思うし、不味ければマズイと思うのだけど。意識が常に自分じゃない人の皿にあるせいか。熱過ぎやしないか、ぬる過ぎやしないか。そして、減り具合が気になるし、もっと汁を足そうか、と声をかけたくもなる。何より、美味しそうにしているか、満足そうにしているか、そこが一番気になるので、自分の方は食べた気がしない。昔から、母親が「アナタがこれを食べなさい。」と、料理の一番イイところをよこしてくれると、「おかあさんは食べたくないのかな。」と不思議だったけど、そのメカニズムが少しわかった。気が気じゃない、とまではいかなくても、母は常に私の皿を気にしていたのだろう。
最近、思う。昔、「大きくなったら何になりたい?」と言われたときに思い描いていたのは、今の自分だ。方向性は大きくずれてないんじゃないかな、と思う。あとは、限りなく精密な機械を扱うときにするような、繊細な微調整だ。
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備忘と雑感。
●とうもろこしとたまごのスープ。(1月30日・月曜日の夕食。)
母が作ってくれる中では、三本の指に入る好物。
鶏ガラスープの素、長ネギ、ショウガ、
鶏もも挽肉、たまご、片栗粉、スイートコーン(クリームタイプ)
長ネギとショウガでダシをとる。沸騰したら湯の中で挽肉をポロポロと崩し、ガラスープの素を入れる。スイートコーンを丸々空けて、塩で味を整える。たまごを糸状になるようにゆっくりとき入れ、水溶き片栗粉を50?ほど。
味付けが命のスープは、鍋が変わると普段の目分量が使えないので困る。
●有限実行について。
長い間、「有限実行」とは、大口を叩いておいてそれを見事達成するような、ある種のファインプレーだと思っていた。んが。
言った通りにしなくてもさしたる影響は無いようなこと、そういった小さい宣言。破られても周りはあまり気にしないようなことだけど、それを、きちっ、きちっ、と言った通りにこなし続けることが、何より一番難しく、確固たる信頼を獲得するための近道であり長い道なんだと思う。
ただでさえ寒いのに、横で眠る人に布団を独占されていた。朝から身震い。一人そそくさと脱出→朝ゴハンの買い出しへ。
日曜日、彼の家の周りは賑やかになる。久しぶりに気持ちよい陽気の朝だ。お財布だけを持って出てきた老夫婦や、赤ちゃんを前後に抱えてさらに両手に袋を持つ奥さんなどの間を通り抜け、私も入れて入れて、と、スーパーで食材を物色。
近所にはスーパーが二軒あって、おそらく値段が違う。近々、調査すべしだ。とにかく、何が重要かって、彼の部屋で作れること(場所をとる料理は不可)、白米を必要としないこと(米のストックが無い)、解凍を必要としないこと(電子レンジが無い)、調味料を買わずに済むこと(塩くらいしか無いが、しょうゆは補填完了。)、そして1000円札一枚に収まることだ。会員様価格、という表示に指をくわえる私。会員になりたい。
彼の部屋の鍋底がヒドイことになっていたので、100円ショップで鍋も買う。いかにも100円な、アルミの片手鍋。初めてホイッパー(泡立て器)を買ったときや、初めてゴムべらを買ったときのことを思い出した。お菓子作り用ではなく、料理のための台所用品を買うという行為は、なんとなく自立の匂いがする。
買い物袋をふたつ提げて、帰宅。
野菜を刻んでいたら、「あ、すんません…むにゃむにゃ…」とつぶやく布団の中の家主。何に対して謝っているのかわからない。夢の中で取引先と交渉中なのか。ゴハンの支度をしている私に対して「寝ててスミマセン。」と言いたいのか。とりあえず放置して切った野菜を炒めていたら、「あ…おかえりぃ…。」と言い出した。とっくの昔に帰って来てるぞ。
フライパンで炒めた野菜を鍋に移して、グツグツと煮込む。キッチンといっても、振り向けば奴(大量の本)がいる。楳図かずおの『漂流教室』を引き抜いて、煮えるまで読書。が、料理をしながら読むものではないようだ。
恋をすると煮込み料理を作りたくなる、というのはわりと人口に膾炙した現象らしい。その理由はさっぱりわからないが、気持ちはわかる。こういう時間は悪くないし、野菜と肉がおいしく混ざる匂いと、布団の中のぬくい湿気と、三十路前の男の寝顔を独占できる私は、幸せの象徴の渦の中にいる、と思う。具材に煮汁が染みこむように、幸せに満ちた部屋の空気が私の体にも染みこめばいいのに、なーんて少女マンガのヒロインっぽいことを考えてみたり。
ようやく目覚めた人が「わー。スゴイねー。イイ匂いだねー。」と現れた頃には、料理もほぼ完成。パソコン周りを片付けて(というか、単に物を横に寄せただけ)スペースを作り、あつあつのまま食してもらう。
人のために何かを作ってあげる度に思うのだが、一緒に食べていても、自分の食べている物の味がよくわからない。美味しければオイシイと思うし、不味ければマズイと思うのだけど。意識が常に自分じゃない人の皿にあるせいか。熱過ぎやしないか、ぬる過ぎやしないか。そして、減り具合が気になるし、もっと汁を足そうか、と声をかけたくもなる。何より、美味しそうにしているか、満足そうにしているか、そこが一番気になるので、自分の方は食べた気がしない。昔から、母親が「アナタがこれを食べなさい。」と、料理の一番イイところをよこしてくれると、「おかあさんは食べたくないのかな。」と不思議だったけど、そのメカニズムが少しわかった。気が気じゃない、とまではいかなくても、母は常に私の皿を気にしていたのだろう。
最近、思う。昔、「大きくなったら何になりたい?」と言われたときに思い描いていたのは、今の自分だ。方向性は大きくずれてないんじゃないかな、と思う。あとは、限りなく精密な機械を扱うときにするような、繊細な微調整だ。
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備忘と雑感。
●とうもろこしとたまごのスープ。(1月30日・月曜日の夕食。)
母が作ってくれる中では、三本の指に入る好物。
鶏ガラスープの素、長ネギ、ショウガ、
鶏もも挽肉、たまご、片栗粉、スイートコーン(クリームタイプ)
長ネギとショウガでダシをとる。沸騰したら湯の中で挽肉をポロポロと崩し、ガラスープの素を入れる。スイートコーンを丸々空けて、塩で味を整える。たまごを糸状になるようにゆっくりとき入れ、水溶き片栗粉を50?ほど。
味付けが命のスープは、鍋が変わると普段の目分量が使えないので困る。
●有限実行について。
長い間、「有限実行」とは、大口を叩いておいてそれを見事達成するような、ある種のファインプレーだと思っていた。んが。
言った通りにしなくてもさしたる影響は無いようなこと、そういった小さい宣言。破られても周りはあまり気にしないようなことだけど、それを、きちっ、きちっ、と言った通りにこなし続けることが、何より一番難しく、確固たる信頼を獲得するための近道であり長い道なんだと思う。
コメント
ところで、卵入りのとろみスープを作る場合は、とろみをつけてから溶き卵を入れると、卵が帯状になって固まって綺麗ですヨ。よかったら試して見てくださいまし。
お母様お手製のスープ、美味しそうですね〜。
いやはや、ありがとうございます。相変わらずのワタクシです。
とろみの件!やっぱり!いつも母が作るものは、たまごがいい感じに帯状になってるので、砂姫さんのコメントを読んだ後に聞いてみたら、やっぱり、片栗粉→たまごの順でした。次回、試してみます!