2006年5月20日
高速で時間が過ぎゆく土曜日。

朝から同時多発的に勃発するプチ緊急事態への対処に追われる。本日は外回り(という名の肉体労働)が無いのでホッとしていた私に下されたのは、壊れた家電を今すぐ買ってきて、という指令。「アイアイサー!」と朝から電器屋に急行するのは、アイアイサー以外に言葉を持たない手下のような新入社員(←私のこと)。

昼を回っても相変わらず。

"鳴らない電話"を見つめる世の乙女には申し訳ないが、我が社にあるのは"鳴りやまない電話"。お電話ありがとうございます、お電話ありがとうございます、お電話ありがとうございます、とオウムのように連発する私と、「りんさん、こっち入って!」「はいっ!」「りんさん、こっちも!」「はいっ!」「りんさん、電話鳴ってるよ!」「はいっ(どっちを優先すればよいのじゃー)!」と右往左往するうちに爪が折れたりブラのホックが外れたり。

本日も日付が変わってから帰宅。

ようやく見るのは"鳴らない電話"。パチンと畳んで考える。考えた私は文章を書く。作家・小川洋子はかつてこう語ったという。「作品はすでに、人知れぬ場所に存在する洞窟の壁に、全て書かれている。私の仕事はその洞窟を見つけ出すことに始まるのです。」と、この話を教えてくれたのは尊敬するOにーさん。

「言葉」というメディアの便利さに気付いた私はかつて大興奮した。「言葉」こそもっとも素晴らしいメディアだと。変換時の精密さでは映像に及ぶべくもないが、だからこそいざ正確に言葉に変換できたときの喜びは大きい。その興奮は今も忘れてないけど、小川さん言うところの洞窟を必死で探して言尽くすとき、「言葉」を求めているはずの私は不思議と「言葉」から遠ざかる。

言尽くし尽くされないところに愛はないと思っていた。言尽くすために愛しい人の前に立ち、見つめ、口を開く。デートを重ねて言尽くす。キスをして唇が離れた瞬間に言尽くす。肌を合わせて言尽くす。言尽くすことが目的だったはずの私はいつしか目的を見失い、言尽くさない「行為」にのみ注目し、得られなければ逆上した。

時は過ぎ。

「言葉」がそれほど優秀なメディアじゃないと(いつの間にか)教えられた私は、「言葉」と「行為」がセットになってパッキングされた「ザ・日本の男女交際」に疑問を持つ。言尽くすのはかまわない。行為があるのは結構なことだ。が、このバリューセットの怖いところは、目的を見失いやすいことだろう。「言葉」も「行為」も本来は同等だ。同等のそれらと一線を画したところにこそ、「目的」がある。「言葉」+「行為」<「目的」。

「目的」をしかと見つめて真剣に言尽くすとき、「言葉」を探したはずの私は「言葉」のない世界に立っている。待つ女が美しいのは、言尽くせない現状に一度絶望し、「言葉」も「行為」もない世界に旅立つからじゃないかな。「言葉」も「行為」もない世界には「目的」がある。「目的」を私なりに定義するなら、人間にはなかなか見ることができない概念ばかりの世界で唯一確かな、誰かをどうしようもなく好いているから伝えたい、という、到底言語化できない純粋な何か。

「ザ・日本の男女交際」を多くの人がおいしいおいしいと貪る中、「目的」を果たすために奮闘するごく少数のチームに私は加わりたい。加われると信じたい。なぜなら、なんとしても言尽くそうと奮闘した私を掬い上げた人と出会ったのは、「言葉」より優秀な「映像」さえない概念の世界においてだから(←なんか微妙に意味不明)。

さて、仕事しよう。


目が覚めて消える夢ならもっといい 恋は現実 愛は生活 (佐藤真由美)

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