秘書の戯れ言 vol.4

2006年9月14日
カフェイン摂りすぎで候(打ち合わせだらけ)。

山手線車内にて。

他社からヘッドハントされてきた専務は40代前半。まだまだ若くていらっしゃる。煙草の吸いすぎなのかゴホゴホと咳き込む彼のとなりで、新入社員の私は景色を物珍しく眺めたり。降りる人、乗る人。今はおなじ電車のおなじ車両でおなじ方向へまっすぐ向かっているけど、このお方はいつ降りるかわからない。「わたしは今すぐ会社を辞めても行くところがありますよ」という言葉が離れない。

一時間毎に煙草を欲する専務が、自身の喫煙癖を省みて「すみませんね、吸わない人の前で」と言う。「お気になさらないでください。自分は煙草がなくても構いませんが、人が吸うのも構わないんです」と私は言う。「あなたは商売人の娘ですね」と専務が言う。目をパチクリさせた私に対し、専務はいつも茶目っ気を含んだ瞳で意味深に笑うのだ。

この業界では「傭兵」と呼ばれる専務は、生粋のサラリーマン。そして、優秀なサラリーマン。優秀なサラリーマンになることを希望した私は、脱サラした我が父の生き方を否定したわけではないが、特に肯定したこともない。「私は商売人を尊敬しています。サラリーマンとは覚悟が違います。サラリーマンは外回り中にサボってお茶飲んでても給料日には金が入りますが、商売人はサボってちゃ一銭も入りません」と専務は言う。サボってちゃ一銭も手に入らない商売人が育てた娘が、この私。

さらに言う。「あなたは、いつか、自分で何か始める人ですよ」と。

希望に満ちて入社した私が窓から見える景色に驚愕しながら突き進む様を、専務は見ていたらしい。さっそく組織が嫌になってるでしょう、と突っ込まれてギクリとした私の反応も予想済みなのか、専務の話はとまらない。あなたは人の下につくのも上に立つのも嫌なはず、それでも力と理想があるからいつか人の器から出て自分の器を作るはず、私の経験則ですが、と。

電車が品川に着いた。

専務が降りる。私も続く。入社して僅か半年なのに(社内で)三回も引っ越しを経験する私だが、もともとは地に根を下ろしたい性質で、拠り所が欲しかった。専務はいつまで私の前を歩くだろう。「傭兵」の専務は、同じ業界内ながら、製造・企画・販売の三つの世界を股にかけ、自身の頭ひとつを武器に飄々と流し、(今は)サラリーを稼いでる。「社会人になる」と「会社に所属する」が強いイコールで結ばれていた私は、その他の道を考えたこともない。

製造・企画・販売を分断することなくたったふたり(専務と私)でこなし、私はキャリアを積むだろう。「あなたは、いつか、自分で商売を始める人ですよ」と分析する専務には悪いが、実は驚くほどに物欲がない。モノを愛する専務をよそに、「飽和」という言葉さえすでに悲しくて。それでも流れる"商売人の血"が私をどこかに導くなら、私は何を売るだろう。願わくば、人の進行も妨げたくないし、人に妨げてほしくもない。煙草を吸う人がいてもいいし、仮に私が吸うならとめないで。それが現代のニートを生んだ思考法なら、無責任と罵られない方法で。

品川の街を歩きながら「文化祭シーズンだな」と気付いた。そういえばわたしはクラスの出し物の準備の際も、「分担」が嫌で、ぜんぶ、自分でしたかった。

それにしてもカフェイン摂りすぎで候(トイレが近い)。

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