10月10日前後に生まれて
2006年10月9日
三連休三日目・秋晴れ。
そろそろ私の誕生日。毎年10月前半は雨が多く、私の誕生日あたりを境にパッと晴れ、しばらくは良い天気が続く。良い頃に生まれたと思う。Tシャツの上に上着を羽織り、アディダスのスニーカー(カントリー)を久々に履く。
自宅を出てわずか数百メートル歩くと、私の生まれた個人病院がある。母の実家で生まれ、その後関西に移り、すぐ同じ地に戻ってきた。家から数十キロの範囲で高校まで育ち、大学に通うようになって都心を知った。
ゆるやかな坂を上ると、十数メートルはあるだろう木が張り出してくる。市内でも有数のこの大きい公園にはプールもあって、木々の間から50mプールと滑り台付きの子ども用プールが見える。母が小学生の頃から変わってないらしい更衣室前に、ささくれた木の看板があって、「2時間で小学生50円、コインロッカー10円」と消えそうな字で書いてある。大きめの百葉箱みたいな売店は窓を閉じている。二時間たっぷり泳いだら、ここでカップラーメンを食べるのが好きだった。オンシーズン特に夏休み、ここに来ると誰かしらの自転車があった。自転車置き場には一台もない。
さらに歩くと池もある。梅雨の頃には蓮が咲き、もう少し待つと紅葉が色づき、春には垂れ桜が水を囲む。5分もあれば一周できてしまう池は大きすぎず、小さすぎず。貸しボートは30分200円。日曜日におとうさんとよく乗った。
昼下がりの太陽が池を照らす。ボートの上には親子連れ、夫婦連れ、若いカップル。必ず男が漕いでいる。そういえば私の歴代の彼氏はなぜか全員ボートが漕げなくて、行楽の度に私がオールを持った。「アンタはこの池の誰より漕ぐの上手いな!」と無邪気に褒められて、「えへへ」と笑った記憶がある。その井の頭公園での思い出が悲しくて、相手が変わっても広い意味で色々試してみた。そして駄々をこねた。
が、たまたま私の生まれた土地にボートに乗れる池があったにすぎない。
小銭を二枚取り出し、漕ぎ出す。ぐらんぐらんと最初は揺れる。おとうさんに教えてもらったように、オールの向きを整えて。水面に近い場所ではなく、適度に深いところで水を掻く。波紋が広がる。銀杏の匂いと水の匂い。私の生まれた土地に"たまたま"池があったから、私はボートを漕ぐのが得意である。
しっかりオールを掴んだ気でいても、どこに向かうかわからない。ぷかぷかと頼りなく漂いながら、私は気付けば岸を遠く離れている。そして、やはりひとりより誰かと乗った方が楽しいだろうとは思う。ただ、もし、一緒に乗る相手が"たまたま"「実は漕げないんだ」と言うのなら、得意な方が漕げばいいと思う。
都心を離れた郊外。この池も含めた何もかもを見てほしい。知り合い全員がこの池のことを知っていた時期もあるのに、今は、池のこと含め私を知らない人ばかり。いつか、大切なものをこの手にふたたび私だけのフィールドへ、と思う。24になる日が近い。
そろそろ私の誕生日。毎年10月前半は雨が多く、私の誕生日あたりを境にパッと晴れ、しばらくは良い天気が続く。良い頃に生まれたと思う。Tシャツの上に上着を羽織り、アディダスのスニーカー(カントリー)を久々に履く。
自宅を出てわずか数百メートル歩くと、私の生まれた個人病院がある。母の実家で生まれ、その後関西に移り、すぐ同じ地に戻ってきた。家から数十キロの範囲で高校まで育ち、大学に通うようになって都心を知った。
ゆるやかな坂を上ると、十数メートルはあるだろう木が張り出してくる。市内でも有数のこの大きい公園にはプールもあって、木々の間から50mプールと滑り台付きの子ども用プールが見える。母が小学生の頃から変わってないらしい更衣室前に、ささくれた木の看板があって、「2時間で小学生50円、コインロッカー10円」と消えそうな字で書いてある。大きめの百葉箱みたいな売店は窓を閉じている。二時間たっぷり泳いだら、ここでカップラーメンを食べるのが好きだった。オンシーズン特に夏休み、ここに来ると誰かしらの自転車があった。自転車置き場には一台もない。
さらに歩くと池もある。梅雨の頃には蓮が咲き、もう少し待つと紅葉が色づき、春には垂れ桜が水を囲む。5分もあれば一周できてしまう池は大きすぎず、小さすぎず。貸しボートは30分200円。日曜日におとうさんとよく乗った。
昼下がりの太陽が池を照らす。ボートの上には親子連れ、夫婦連れ、若いカップル。必ず男が漕いでいる。そういえば私の歴代の彼氏はなぜか全員ボートが漕げなくて、行楽の度に私がオールを持った。「アンタはこの池の誰より漕ぐの上手いな!」と無邪気に褒められて、「えへへ」と笑った記憶がある。その井の頭公園での思い出が悲しくて、相手が変わっても広い意味で色々試してみた。そして駄々をこねた。
が、たまたま私の生まれた土地にボートに乗れる池があったにすぎない。
小銭を二枚取り出し、漕ぎ出す。ぐらんぐらんと最初は揺れる。おとうさんに教えてもらったように、オールの向きを整えて。水面に近い場所ではなく、適度に深いところで水を掻く。波紋が広がる。銀杏の匂いと水の匂い。私の生まれた土地に"たまたま"池があったから、私はボートを漕ぐのが得意である。
しっかりオールを掴んだ気でいても、どこに向かうかわからない。ぷかぷかと頼りなく漂いながら、私は気付けば岸を遠く離れている。そして、やはりひとりより誰かと乗った方が楽しいだろうとは思う。ただ、もし、一緒に乗る相手が"たまたま"「実は漕げないんだ」と言うのなら、得意な方が漕げばいいと思う。
都心を離れた郊外。この池も含めた何もかもを見てほしい。知り合い全員がこの池のことを知っていた時期もあるのに、今は、池のこと含め私を知らない人ばかり。いつか、大切なものをこの手にふたたび私だけのフィールドへ、と思う。24になる日が近い。
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